クロルプロマジン換算量で統合失調患者様の改善や悪化がすべて説明できるのであれば、極端な話、抗精神病薬はクロルプロマジンさえあればよいことになってしまいます。
実際には、抗精神病薬の中にも様々な作用機序を有するものがあり、クロルプロマジン換算量はそれらを比較するための目安にしか過ぎません。
適切な例えかどうかは分かりませんが、メジャーリーグで3位のチームのエースピッチャーは、プレミアリーグで5位のチームのゴールキーパーと同格であろう、といった程度の比較に過ぎません。
精神科の病気は実際にはまだまだ分かっていないことのほうが多く、どの患者様にどのようなお薬が効くのかをあらかじめ予測することは出来ません。
統合失調症とは症候群の名前であって、ひとつの病気ではないだろうとも言われており、おそらくこれは正しい仮説だと思われます。
患者様と抗精神病薬との間にはなぜか相性のようなものがあって、高用量のジプレキサでまったく良くならない患者様が、低用量のリスパダールで劇的に良くなる、といったことが臨床の場ではしばしば起こります。
しかし相性の良いお薬をあらかじめ予測することはできないので、1つずつ順番に試していくしかないのです。
作用機序や化学的クラスが異なる抗精神病薬同士の置換では、精神科医はCP換算量はあまり念頭には置きません。
そもそも、換算表は1種類ではなく、複数の換算法があって、一定した値が示されているわけではありません。
> なぜ今回ジプレキサ5mgだけ減量して入院するほど体調を崩したのに
> 入院3日目でまたインヴェガをそのままでジプレキサを減らそうとおっしゃるのか
これは、「薬を変える時は1つずつ動かす」という鉄則を厳守しているからだと思われます。
ジプレキサの減量とインヴェガの増量を同時に行って、例えば悪化した場合(改善した場合も、ですが)、それがジプレキサを減らしたせいなのか、インヴェガを増やしたせいなのかが判断できなくなります。
後々の処方方針の策定に役立てるために、主治医はこの原則を守ってジプレキサ⇒インヴェガの置換を行おうとしているのだと思われます。
実に「常識」的なやり方です。
しかしこの常識的なやり方を貫けない精神科医のほうが多いのが現実です。
特にご子息のように激しい行動化を起こす患者様の場合、多剤大量(CP換算で2,000mg以上)の抗精神病薬を投与し、過鎮静にして「リスク」を減らそうとする医師や病院の方が多いでしょう。
ご子息の場合は、ジプレキサは一定程度効いていたのでしょう。
しかし最高用量の20mgまで用いたにも関わらず激しい症状が残ったため、インヴェガへの置換が図られたものと思われます。
残念ながら入院という結果にはなってしまいましたが、凡百の精神科医ならば、ジプレキサを減らさずに、そのままインヴェガを上乗せしてどんどんCP換算量を増やしていくところを、漸減・漸増で置換を図った主治医の治療戦略は正しかったと考えます。
治療方針が合わないとお考えならば、主治医の変更を申し出るか、転院を検討されてもよろしいかと思います。
それもまた、患者様の権利です。
以上、ご参考になれば幸いです。