大変お待たせしました。
回答は、大きく2つのパートに分けさせていただくことにします。
①診断、②ご家族の対応、です。
①診断
ここまでの情報を拝読したかぎりでは、相談者様に双極性障害の診断が下されるべきかどうか、いささか疑問に感じられます。
躁うつ病の患者様の7割がうつ状態で発症し、最初はうつ病と診断されて治療され、躁状態が現れると診断が躁うつ病に切り替わります。その意味では、かつて2度、うつ病と診断された相談者様が躁状態を呈したのだとしたら、そこで双極性障害に診断が変わるのはある意味で典型的な経過と言えます。
しかし半年以上たって振り返ってみても相談者様ご本人が何を躁状態を判断されたのかが分かっておられないというのは腑に落ちません。
現在、精神科領域でもっとも一般的に用いられているDSM-IV-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル)における躁病エピソード(躁状態)の診断基準の一部を以下にお示ししておきます。
本来、精神科疾患の診断はこのようなチェックリストに当てはめて考えるべきものではありませんが、このようなネット相談では使い勝手がいいので、あくまでご参考まで、ですが。
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A. 気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的ないつもと異なった期間が、少なくとも1週間持続する (入院治療が必要な場合はいかなる期間でも良い)。
B. 気分の障害の期間中、以下の症状のうち3つ (またはそれ以上) が持続しており (気分が単に易怒的な場合は4つ)、はっきりと認められる程度に存在している。
(1) 自尊心の肥大、または誇大
(2) 睡眠欲求の減少 (例えば、3時間眠っただけでよく休めたと感じる)
(3) 普段よりも多弁であるか、しゃべり続けようとする心迫
(4) 観念奔逸、またはいくつもの考えが競い合っているという主観的な体験
(5) 注意散漫 (すなわち、注意があまりにも容易に、重要でないかまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)
(6) 目標志向性の活動 (社会的、職場または学校内、性的のいずれか) の増加、または精神運動性の焦燥
(7) まずい結果になる可能性が高い快楽的活動に熱中すること (例えば制御のきかない買いあさり、性的無分別、またはばかけた商売への投資などに専念すること)
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うつ状態に比べると、躁状態は、患者様ご本人の本来のキャラクターとの連続性に乏しいので、周囲から違和感を指摘されることがほとんどですし、振り返れば患者様ご本人も自分が尋常の状態ではなかったことがわかります。
苛々しやすい、ということだけなら、双極性障害を持ち出さなくても、うつ病で説明がつきます。
うつ病というと気持ちが落ち込んだり意欲が無くなったり、といった症状を思い浮かべられるかもしれませんが、苛々や衝動性が前面に出る激越型のうつ病という病型があります。
うつ病に占める割合は決して少なくはなく、特に女性ではこの病型をきたす方が多いのです。 そうなると、気になるのが、相談者様が受けられている薬物療法です。
残念ながら、相談者様が服用されているお薬は、どちらに転んだとしても効果を期待できないかもしれない内容と用量です。
躁うつ病とうつ病は全く異なる病気であることが分かっており、病像が似ていても、躁うつ病の患者様のうつ状態に抗うつ薬を投与しても効果がありませんし、むしろ躁転や急速交代化、難治化といった、病状の複雑化を招きます。
したがって、相談者様の診断が双極性障害で間違いないのであれば、抗うつ薬を用いていない現在の処方は、その意味では地雷を踏んでいません。
しかし、大事な的を外しています。双極性障害の治療には、気分安定薬と呼ばれる、気分の幅を一定に収めるお薬が用いられます。薬剤名としては、リーマス、デパケン、テグレトール、ラミクタールなどが気分安定薬にあたります。
これらのお薬は躁うつ病の躁状態にもうつ状態にも有効で、継続的な服薬を続けることで病相予防効果もあります。
相談者様はこのうちデパケンを処方され、服用されているわけですが、気分安定薬には有効血中濃度というものがあり、おおまかに言うと、有効血中濃度に達していなければ気分安定医薬は十分な効果が期待できません。
どれくらいの用量を服用するとどれくらいの血中濃度になるのかは個々の患者様によって違ってきますので、少量から始めて血液検査をして血中濃度を測り、という作業を繰り返して患者様ごとの適切な用量を設定する必要があります。
昨年5月からこれまで血中濃度を測定したことが無いわけですから相談者様におけるデパケン400㎎が適量がどうかはわかりかねますが、経験的にはデパケンの場合、600~800mg、時には1200mgが必要となります。相談者様のデパケンは用量不十分である可能性が大です。
ミラドール(物質名:スルピリド)の100mgも不十分量です。
スルピリドというお薬の用法・用量を以下に引用します。
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胃・十二指腸潰瘍:1日150mgを3回に分割経口服用する。
うつ病・うつ状態:1日150~300mgを分割経口服用する。1日600mgまで増量することができる。
統合失調症:1日300~600mgを分割経口服用する。1日1200mgまで増量することができる。
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スルピリドは中枢移行性が低い薬で、たくさん飲まないと脳まで届きません。
低い用量では首から下に効いて胃薬として、すこし用量を上げると抗うつ薬として、さらに上げると抗精神病薬として作用するといったユニークな薬です。
また、脳そのものには届かないのに脳下垂体(人間のホルモン分泌の中枢です)には届き、プロラクチン(乳汁分泌ホルモン)を上昇させるので、女性患者様においては、月経不順や無月経のような副作用をしばしば引き起こします。体重増加もよく見られるスルピリドの副作用です。
そもそも効果が低い薬を低用量で用いられているわけですから、効果は期待できません。
結局のところ、相談者様が服用されているお薬のうち、主剤であるデパケンとスルピリドは服用している意味が希薄であったと言わざるをえません。
また、双極性障害であれば抗うつ薬は禁忌といってもよいのですが、逆にうつ病だった場合は薬物療法の主剤は抗うつ薬であるべきです。
そして相談者様は抗うつ薬を処方されていません。
「どちらに転んだとしても効果を期待できない」と前述したのは、診断が合っていて双極性障害であったとしても現在の処方では用量が不十分で効果が期待できませんし、診断が間違っていてうつ病だった場合はそもそも現在の処方は効くはずがない、ということです。
双極性障害は診断も治療も難しい病気です。
処方を拝見する限りは、現主治医が双極性障害を扱うに十分な力量をお持ちのようにはお見受けしません。
他院でセカンドオピニオンを受けられるか、転院されることをお勧めします。
②ご家族の対応について
これは、相談者様の場合、すこし難しいところがあります。
と申しますのは、お義母様はともかく、ご主人の理解や対応が、ものすごく酷い、というものではないように思えるからです。
精神疾患は理解が難しい病気なので、一般の方に百点満点の対応を期待するのは酷です。特に不幸にして相談者様のように不調が長引いてしまった場合、相談者様ご自身が「どこまでが病気の症状?性格の問題?と考えてしまう」くらいですから、周りの人たちも、病気ではなくて性格の問題なのではないか、という方向に傾きがちになります。
一方で、家族の感情表出 (Expressed Emotion:EE)が精神疾患の回復や再発に大きく関わることが知られています。
http://www.dr-yagi.com/qa/answer_198_kokoro.htm転院先として、家族教室を開いているような病院を探すことも一つの方法ですが、主治医(現在の主治医ではない方がいいとは思いますが)にいちど時間をとってもらって、ご主人とご一緒に受診され、疾患の説明や、接し方についての教示をしていただくのがよろしいかと存じます。
長くなりましたが、以上、ご参考になれば幸いです。