知的財産権を専門とする者です。
音楽は、歌詞と楽曲から構成されていますので、外見上は一個の著作物ですが、歌詞だけ、または楽曲だけでも利用できるものです。
このように分離して利用できる複数の著作物を含む著作物を結合著作物といいまして、歌詞の著作権と楽曲の著作権の二つの著作権が存在します。
そこで、歌詞について、替え歌を作る行為は、「翻案」に該当し、歌詞の著作権のうちの翻案権と抵触する可能性がでてきます(著作権法27条)。
この「翻案」と申しますのは、最高裁の判例では、次のように判示されています。
『先行する原著作物(元の歌詞)に修正増減を施し、新たに創作性のある表現を付加(替え歌)しても、それが、原著作物に依拠し、かつ、原著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる場合をいいます。』
この翻案は、複製といえるほどには原著作物と近似していないが、全く別の著作物ともいえない著作物。あるいは、複製といえるほどではないが、それでもなお、二次的著作物(替え歌)から原著作物(元の歌詞)を直接想起させるほどに似ているといったようなものです。
そのため、元の歌詞とは全く異なる歌詞を新たに創作した場合には、それは翻案ではなく、新たな著作物となり、元の歌詞の作詞家さんの著作権(翻案権)を侵害することにはなりません。
一方、その替え歌が、元の歌詞を想起させる程度の改変である場合には、それは「翻案」となり、著作権を侵害してしまうことになってしまいます。
そのため、まったく異なる歌詞を創作される場合には著作権の問題は生じませんが、翻案となる場合には、著作権者の許諾が必要となります。
先ほども申しましたように、結合著作物を構成する個々の著作物は個別に利用できますので、その著作権や著作者人格権は各著作者が個別に行使します。したがいまして、作詞家から替え歌のための翻案権の利用許諾を受ける必要があります。