知的財産権を専門とする弁理士です。
まず、著作権の保護期間が切れている著作物(本事案では「映画」)は、許諾を得ずに使用できます。
また、営利を目的としない上映の場合にも権利者の許諾なく上映することができます(著作権法(以下「著」とします)38条1項)。
映画の著作物を許諾なく上映するのはこの2通りしかありません。
そこで、以下、場合を分けてご説明します。
1.保護期間が切れている映画の著作物の上映(著51条1項、54条)
映画の著作権は原則として、映画の公表後70年を経過するまでの間、存続します(著54条1項本文)。ただし、創作後70年以内に公表されなかったときは、創作後70年を経過するまでの間、存続します(著54条1項かっこ書)。
したがいまして、公表後70年又は創作後70年を経過している映画については、著作権は消滅していますので、誰の許諾も得る必要がなく上映できます。
映画はいわゆる二次的著作物です。二次的著作物とは、原作→脚本→映画化という流れにおいて、原作や脚本を「原」著作物とし、それに基づいて創作された映画は「二次的著作物」ということになります(著2条1項11号)。
そのため、映画を上映する場合には、映画の著作権者の他に原著作物の著作権者(通常は別人となる場合が多い)の承諾も必要となります。
しかし、映画の著作権が保護期間の満了により消滅したときは、その原著作物の著作権も一緒に消滅します(著54条2項)。したがいまして、映画の著作権が消滅した場合には、原著作者の承諾も得ることなく、その映画を上映することができるということになります。
2.営利を目的としない上映の場合(著38条1項)
公表された映画であって、営利を目的とせず、聴衆・観衆から料金を受けず、かつ、実演家又は口述を行う者に対して報酬が支払われない場合には、許諾を得ずに、無償で上映できます。
これは、著作物を原作のままで利用する場合に限られ、一部の省略やアレンジして上映するような翻案利用は認められません(翻案を認めている著43条には、著38条は入っていません)。
改変して利用すると、同一性保持権(著20)や翻案権(著27条、28条)の問題が生じてきます。ただ、客観的にやむを得ない事情により翻案せざるを得ないと認められ場合には、多少、翻案できる余地はあるのではないかと思われます。
以下、詳細についてご説明します。
① 「営利を目的とせず」という要件は、上映によって直接的には利益を得なくても、間接的に利益が得られる場合には、営利目的になってしまうということです。
例えば、入場は無料であっても、上映会場で何らかの商品の販売や何らかの営利目的のサークル、クラブ、組織への入会、会員の募集をするような場合、ある商品の購入者に入場を限定しているような場合には、その上映会が、それらの集客を目的に行われていると判断され、営利目的と判断される可能性があります。
また、上映によって第三者が利益を得るような場合、例えば、ある企業の宣伝のために行われる上映会のような場合にも、営利目的と判断される可能性があります。
②「聴衆等から料金を受けない」場合の「料金」は、上映会での会場整理費、クロークでの一時預かり料金、プログラム料金、飲料料金など、上映とは関係なく提供されるものの実費ないし通常の料金の範囲内であれば料金ではないと考えられています。
入場無料で行うのであれば問題はないと思われますが、料金はいずれの名目をもってするかを問わないので(著38条1項かっこ書)、例えば、観客から入場料の名目ではなく、寄付金というような形で徴収される場合には、その寄付金は「料金」に当たるとされた東京地裁の判例がある点に注意してください。
③「実演家または口述を行う者に報酬が支払われない場合」という条件は、映画の上映以外の、上演、演奏、朗読などの口述により著作物を利用する場合ですので、本事案においては、関係のない条件です。
したがいまして、DVDビデオを個人で購入するか、または、複数で購入するといったことは無関係です。あくまでも上述した条件を満たしているか否かによって判断されます。
なお、著作権者は上映権を有しています(著22条の2)。この上映権とは、「著作者は、著作物(映画)を公に上映する権利を専有する」というものです。
したがいまして、映画を個人で鑑賞する分には問題がなく、「公」で上映する場合にこの上映権と抵触するため、上述した営利を目的としない上映(著38条)であれば、許諾なく上映できるというものです。
この「公」には、著作権法上、不特定多数の者だけでなく、「特定かつ多数の者」を含むとされています(著2条5項)。
そのため、複数人でDVDビデオを購入して、観賞する場合であっても、購入費用を「入場料」と判断され、かつ、その複数人を「公」と判断され、営利目的の上映とされるおそれがある点に注意が必要かと思われます。
(2)出所の明示義務(著48条1項3号・2項)
上述しましたように、営利を目的とせずに上映する場合には、原則として、その著作物(映画)の出所を明示する義務が発生します。
出所の明示は、映画を上映するにおいて、そのような慣行がある場合に限られますが、映画の場合に出所明示の慣行があるかは定かではありませんが、著作物を利用するほとんどの場合、明示の慣行があると考えていいと思われます。
出所の明示義務に違反しますと著作権侵害とはなりませんが、出所明示義務の違反の罪として50万円以下の罰金が科されます(著122条)。