お手数をおかけ致しました。
弁護士のエイティからご回答致します。
原判決や双方の主張書面、証拠関係を拝見していないので、一般論に近いご回答であることをご了承下さい。
まず、ご相談者様にて誤解があるようですが、レンタル契約と賃貸借契約というのは基本的に同じことを意味しています。
ただ、本件で区別されているとすれば、「レンタル契約」というのは本件での具体的な使用PCに関するご相談者様と会社との間の使用関係を規律する契約、「賃貸借契約」は民法に規定のある典型契約であるという意味での賃貸借契約、という使い分けだと思います。
レンタル契約や賃貸借契約と対置される概念が、リース契約ということです。
おそらく原審判決では、ご相談者様も「レンタル契約」であるという認識があるとおり、会社とご相談者様との間のPCの使用関係は賃貸借契約だと認定したものと思われます。
その上で、会社とリース会社との契約関係とは無関係に、ご相談者様は会社との間でPCの売買契約を締結したのだから、この売買契約に基づく会社からご相談者様に対する代金請求には理由がある(請求認容)、との判断に至ったものと思われます。
これに対して、ご相談者様から、売買契約の締結は認めた上で、錯誤の主張(錯誤に基づく契約が令和2年4月1日より前であれば無効、これ以降であれば取消)の主張をするというのは正しい争い方であると思います(できれば原審で主張しておかれるべきでしたが、売買契約を認めた上での予備的な主張をする余裕がなかったものと拝察します)。
ご相談者様がご主張になるべき錯誤の内容は、違約金を支払う義務がないにも関わらず、違約金を支払うか買い取るかの選択肢しかないという真実でない事実を前提として、これをもとに買い取るという意思表示をした、といういわゆる動機の錯誤です。
この錯誤が認められるためには、違約金を払う義務がないという事実を主張立証する必要があり、そのためには、ご相談者様と会社との間の賃貸借契約書(PC賃貸申込書)には違約金の定めがなく、口頭での説明ももちろんなく、退職に際して初めて違約金を支払うよう会社から要求されたこと、そして就業規則にも退職時の貸与PCに関する違約金の定めは規定されていないこと(あるいは就業規則が事務所に備置されておらず、あるいは備置されていても従業員が自由に見られる状態にはなく、就業規則の内容が従業員に周知されていなかったこと)を具体的に主張立証することになるかと思います。
なお、動機の錯誤が認められるためには、意思表示の際に動機が相手方に表示されていることが必要ですが、本件では違約金と買い取りのいずれかを選べと会社側から言われてそのやむを得ない選択として買い取りの意思表示をなさっているわけですから、動機の表示という要件を満たすことには問題ないものと考えます。
錯誤の主張に対する会社側の反論としては、そもそも上記のような錯誤を主張する前提となる事実関係を争ってくることと、これに加えて錯誤取消は表意者に重過失がある場合には認められませんので、ご相談者様の重過失を主張してくる可能性があります。
ただ本件では契約条違約金の定めがあるというのであれば会社側にその内容の説明義務があり、違約金の定めがある賃貸借契約書(ないし賃貸借の内容が明文で示された書面)を交付すべきですし、会社から違約金か買い取りかの選択を迫られている状況で、錯誤による意思表示をなさったことが重過失と評価される余地はあまり考えにくいように思います。
以上のご説明は、買い取りの意思表示をなさったのが令和2年4月1日以降であった場合(改正民法の施行後)を想定していますが、施行前の錯誤無効の主張であっても基本的な主張立証内容にはあまり変わりがありませんので、売買契約を取り消すのか、無効を主張するのかという点を注意なさっていれば、さほど大きな違いはないと考えて差し支えありません。
ご相談内容中、1点気になりましたのは、「原告が一貫して『レンタルPC』との虚偽の説明をしてきた」とのご主張です。
レンタルPCということは民法の賃貸借契約の規定が適用され、明示的な違約金の定めがなければ、違約金債務は発生しません。従って、ご相談者様は、レンタルPCと認められた方が有利であり、原告がレンタルPCと説明してきたのであれば、それは誤りであると主張することは、ご相談者様にとって不利であると考えます。
この点、上記のような「レンタル」「賃貸借」と「リース」のご理解を誤っておられるのではないかと拝察致しました。
また、ご質問内容中「入社」「退職」との言葉があるため、会社とご相談者様との関係は雇用契約関係にあったものとしてご回答しておりますが、もし雇用ではなく業務委託契約の場合には、就業規則云々の下りは主張できませんので無視してお読み下さい。
以上、ご参考になれば幸いです。